スピード感(仮)

自分の好きな音楽、中古屋で収穫したCD等についてつらつら語ります

heath『GANG AGE CUBIST』レビュー

いつの日かX JAPANが再び動くことを祈念して、、、

GANG AGE CUBIST

GANG AGE CUBIST

  • アーティスト:heath
  • ユニバーサル ミュージック
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 98年6月リリースの X JAPANのベーシストheathの2ndアルバム。
バンドスタイル曲を収録したDisc1とリミックス集のDisc2の2枚組です。

 今作の先行シングルは3rd『Crack yourself』のみで1st·2ndシングルが未収録となっています。レコード会社の移籍等の所謂"大人の事情"があったわけではありませんので、明確な意志をもって外されたと推測できるでしょう。
(しかも1st『迷宮のラヴァーズ』名探偵コナンEDタイアップでオリコン10位のヒット曲なのに!)
※厳密には『Traitor』が一応Disc2に原型をとどめないリミックス音源として収録

 その理由は時系列とシングル曲の音楽性から容易に推測できます。96年10月の1stと97年2月の2ndの表題曲はインダストリアル由来の性急なマシンビートを軸とした作風でまとめていましたが(共同編曲は杉山勇司)、一方で98年4月の3rdは生ドラムを含むバンドのダイナミズムをパッケージした楽曲です。
 この1年強の間におきた出来事といえば所属バンドX JAPANの解散。
インタビューを読めておらず制作時期が不明なので推測でしかありませんが、帰るべき場所をなくすなかで"自分のバンドを持ち曲を作り上げたい"といった心持ちにシフトチェンジしたであろうことは想像に難くありません。一方で打ち込みも好む人ですので、それについてはリミックスというかたちで表現することにしたのではないかと。
 前置きが長くなりましたが、そんな背景でリリースされた当作をみてまいります。

<Disc 1>
 先行シングルの流れを汲み、プロデュースにCOSA NOSTRA桜井鉄太郎を迎えバンドで作り上げた一枚。ドラムはBY-SEXUALのNAO、ベースはまさかのheathではなくJu-kenが弾いています。(ライブを想定しているとはいえ、ベーシストなのだから音源は自分で弾いてほしい。。。)意外なところでキーボードは河野伸を招聘。

 全体的になかなかキャッチーですし、95年の1stミニアルバム『heath』に残っていた80年代感(ギターの音色や歌謡曲のような歌メロ)も漂白されていますが…やはり本人の歌が足枷に。
しっかり自分で歌える範囲の音域でメロディーメイクしているのですが、そうなるとメロディーの動きが少なくなりますし元々の歌声の線が細いので、煮え切らない印象の方が残ります。
『Solution』に関してはハードなギターリフが先導するダークめなロックなので上記もあまり気にならないのですが、『Believe』『Crack yourself』といった爽快なポップロックはあと一歩·二歩で『ROCKET DIVE』になり切れていないような感覚です。
 歌唱力に関しては、SUGIZO>heath>>INORAN>>yukihiroといった感じでしょうか。


 微妙な感想が続きましたが、出色なのがモロにNine Inch Nailsあたりを想起させるインダストリアルなミドルチューン『Mind』です。
無機質なスネアの響きを中心に据え、ザクザクした攻撃性の高いギターとラップ風のヴォーカルが乗る。どうしても歌に迫力がないのが玉に瑕ですが、NINフォロワーとして上位に位置する完成度ではないでしょうか。
日本のインダストリアル伝道師に同じX JAPANのhideがいるわけですが、もしこの路線で氏が別途1枚作っていれば…と夢想してしまいます。

 他にも冒頭1曲目『Daydream #006 (LP Version)』が原曲『Daydream』の絶叫シャウト部分を抽出した短尺のリアレンジとなっており、痺れそうにカッコいいオープニングです。
ただ"#006"は3rdシングルのc/wに収録されたドラムン調のアレンジであり、別にそこから抽出した感じもないので繋がりはよくわからず。ナンバリングは"#007"ではないのか…?

<Disc 2>
 福富幸宏COSA NOSTRA長田定男に加え自身によるリミックスやデモを収録。
(ヴォーカルやメロが全面に出過ぎない分)Disc1以上にどれも聞き応えがありますが、中でもDisc1でプロデュースを勤めた桜井鉄太郎によるリミックス2曲が素晴らしいです。
 緻密な打ち込みによるダークなインダストリアル/トリップホップリミックスになっており、桜井氏の渋谷系的なイメージとかけ離れた攻撃性に驚きます。クラブジャズというリズムを突き詰める音楽ジャンルを志向するグループの方ですので、同じくリズムが肝なインダストリアルなども音楽オタクとして聴いていたのでしょうか。あと、絶妙な音程の歌声素材がところどころで用いられ、なんだホラー感があるのも面白いです 笑。
意外な人選のようでプロデューサーとしてheathとかなり相性が良かったようですね。

 リミックスが作り手の自己満足や予算消化にとどまっているというケースは多々見受けられますが、今作はそうではなくリミックスDiscの質の高さがアルバムトータルの完成度を引き上げ、さらにはバンド楽曲との相乗効果で互いの意義を引き出しあっているとさえ言えるでしょう。
どちらのサイドが欠けてもならない、2枚組として揃う必要のある作品です。

 ステージでのキャラクターも含めてhideほどキャッチーでない分、heathという人はいまひとつ音楽面で理解されていない印象ですが、彼の指向する「バンド」「打ち込み」の二面性はこのアルバムに詰まっています。

X JAPAN『WRIGGLE』で気になった人は是非中古屋で今作と次作にあたるDope HEADz『PRIMITIVE IMPULSE』を手にとってくだせえ!