スピード感(仮)

自分の好きな音楽、中古屋で収穫したCD等についてつらつら語ります

女性ヴォーカルのJ-POP名盤。ЯK Standard『彼方まで』レビュー。

春の訪れとともに聞きたくなる1枚

LUNA SEA終幕直前にЯ・Kこと河村隆一がこっそりはじめたプロジェクトの唯一のアルバム。2000年12月リリース*1
青空や夕暮れを感じさせる清涼感ある王道ポップス揃いで、隆一ソロや彼がプロデュースした上原多香子1stあたりと同じ作風ではあります。

このプロジェクト最大の特徴はЯ・K氏が一部コーラスに徹し、二人の女性シンガーを大きくフィーチャーした点。
その二人とは、今ではSTARTOアイドルの作詞からK-POPの日本語詞までもを手掛けるシンガーソングライター堀江里沙、そして当時まだ日の目を浴びていなかった時期のKOKIAです。
どちらもЯ・Kworksが描くイノセントな世界観にぴったりとハマっており、互いの魅力を最大限に引き出しています。

楽曲は粒揃い。透き通る歌声と鍵盤が瑞々しいアップテンポ『goes on forever』『生まれたてのブルー』、最後の最後で結局プロデューサーのコーラスが主役に転じてしまう入魂のバラード『彼方まで』など。基本的にはピアノ・キーボード・アコギ等が主導する王道バンドサウンドですが、時折打ち込みを混ぜたりほんのり民族音楽風のスケールをも見せたりと幅は持たせています。
一番の聴き所は、Я・K氏の影の面が出た『激痛』。とことんマゾな世界観を、触れたら脆くも崩れてしまいそうなほどの繊細な声でKOKIAが歌い上げます。

隆一のソロワークスというと甘々ポップスのイメージが強いですが、アルバムには光だけでなくこういう翳りもあったのが良いんですよね。
川に魚の死体が横たわるジャケもGOOD。これも彼流の毒なのでしょうか。

やはりというかサブスク未解禁。中古屋で探すのも至難の業です。
視聴用として・・・他所様の動画ですが、MVがあったので↓。

www.youtube.com

*1:00年2月・5月・7月・9月と先行シングルを4枚リリースしており、長期レコーディングだっというアルバム『LUNACY』制作の裏でこんなことしてたのかと。SUGIZOもレーベル運営をしていたりと当時のSLAVEはモヤモヤしたのでしょうね。

heath+shin=RATS『Traitor』レビューと幻の1stアルバムの影を追い求めて

RATSとはDope HEADz活動休止後のheathが、CRAZEを脱退し既にソロプロジェクトBLOODを動かしていたヴォーカリスト鈴木慎一郎(shin)と組んだユニットです。2003年夏~2004年夏までの短期間のプロジェクトでした。
新たに事務所を立ち上げたうえ、完全にインディペンデントな制作体制であったためかメディアによる取材もほとんどなかったようで現在(当時も?)入手できる情報が非常に限られています。追悼雑誌『All about heath』でも殆ど触れられておらず、すなわち残念ながらベース・マガジンからのインタビューもなかった模様。
今回はそんなもはや幻のようなこのユニットを追いかけてみます。

まずはこちらの紹介から。
シングル『Traitor』

2004年6月リリース。一般流通に乗せていなかったようで入手経路は相当限られていたようです。当然現在は入手困難です(が、heath追悼ライヴで普通に当時の価格のまま販売されたとか。20年近く倉庫に眠ってたんか…?)。いまのオークションでの相場は5,000円前後。そこまでの大枚はたいてまで入手すべきかというと微妙ですが…。

01.Traitor
タイトル曲でかつてのソロ2ndシングルのリメイクです。
原曲はインダストリアル由来のマシンビートで疾走するロックでしたが、カンカン鳴る硬質のスネアにその面影を感じつつもだいぶモダンに生まれ変わってます。
古いHR調だったギターは00年代以降のラウドロック寄りになっており(演奏はノンクレジット。ただしライヴサポートは室姫深·AGE of PUNKのASAKI·ΛuciferYUKIらが替わりがわりだったとのことですので室姫かASAKIではなかろうかと予想)、何より歌のレベルが全然違う。低いキーを歌うのでもこんなに差が出るのかと。「立ち昇れよ~♪」の部分には艶やかさもあり、やはり本職の人は違うなと思わされます。
↓他所様の動画ですが当時の配布ビデオと思われる映像より。雰囲気は掴めると思います。


www.youtube.com



02.Loop
ベース音がかなり前面に出た疾走ロック。hideの諸曲を思わせる爽快さがあり、これはshinの歌唱だからこそ実現できたものと思います(heathソロだと歌唱力の限界からキー設定が低く、煮え切らないメロディーになりがち)

03. Junkies in the box
所謂暴れ曲といえそうなパンク。CRAZEを思わせたりもします。

3曲ともにデジタル要素はゼロですね。Dope HEADzの反動もあるでしょうが、2003~4年はラップメタル的なミクスチャー勢の勢いが少し落ち着き、また国内では青春パンクのブームなんかもありましたのでそんな時流の影響もあったのかもしれません。

リリースはこれと同時リリースのブートレグ風のDVD1枚のみなのですが、実は1stアルバムが制作され発売のアナウンスまでされながらもお蔵入りになっています。
ネット上の限られた情報を集約すると…制作はheathに一任されていたようですが自主制作の悪い面が出てしまったようで、、、YOSHIKIの悪癖を不必要に受け継いでしまったのかスケジュールが大いに遅れ、それをルーズだと感じるshinとのあいだに関係の亀裂が入り修復不可能なまま活動停止に至ったとされています。
そんな幻の1stアルバムを聴くことはもはや叶いませんが、収録予定曲(とされているもの)はDVDで断片を聞けるだけではなく、実は形を変えて世に出ているものがあり、更にはheathソロ曲のリメイクまでもが予定されていたようです。
そこでここからはそれらを追いかけることで、アルバムに想いを馳せてみたいと思います。DVD『Dirty High』のトラックリストをもとに追っていきましょう。

DVD『Dirty High』の裏ジャケ

★『GIVE』

all of heath (4枚組)(Blu-Ray付)

all of heath (4枚組)(Blu-Ray付)

  • アーティスト:heath
  • ユニバーサル ミュージック
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heath作。映像では一瞬なので曲の全貌がほぼわかりませんが、珍しくオルタナロック風の渋いメロディアスさが特徴的な疾走曲です。
2005年のheathソロシングル『NEW SKIN』カップリングに収録されたものの通販限定ゆえ大変入手困難でしたが、2024年にユニバーサル・ミュージックより追悼リリースされたソロ編集盤『all of heath』に収録されたことでようやく手軽に聴けるようになりました。
ヒーさま歌上手くなったのね…と思いきや、拡声器エフェクトなうえノンクレジットでわかりづらいのですが実はナレーションなどで知られる鮎貝健氏がヴォーカルを担っています。
オケはほぼ同じでヴォーカルを差し替えただけという情報がありました。鮎貝のねっとりヴォーカルもカッコいいですが、shinの艶やかでスポーティーな歌声でも聴いてみたかったです

★『Baby』

shin作によるミドルテンポのポップなギターロック。当時からファン人気が特に高かった曲だそうで、彼もお蔵入りにするのは忍びないと思ったか、『MY BABY(BLOOD ver.)』としてBLOODの2004年作『DO IT YOURSELF!』に収録。
DVD映像はサビ部分ぐらいですのでリリースver.でどう変えられたのかがあまり判断つきませんが、サビ終わりのドラムアレンジなどが若干異なるように見えます。またBLOODの音源はあまり低音が出てないので、RATS ver.であればもう少しベースが前面に出た仕上がりだったのではと想像します。
サブスクでも聴けます。
MY BABY - BLOOD ver. - song and lyrics by BLOOD | Spotify

★『world and game』
shin作。セクシーなAメロが好きです。こちらもせっかく作った曲をお蔵入りにはさせるかとばかりに『W·A·G (BLOOD ver.)』として2004年のアルバム『DO IT YOURSELF!』に収録。
パッと聴く限りほぼ同じです。
W・A・G - BLOOD ver. – Musik und Lyrics von BLOOD | Spotify


★『Lovers』

迷宮のラヴァーズ

迷宮のラヴァーズ

  • アーティスト:heath
  • ユニバーサル ミュージック
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ソロ1stシングルでありアニメ名探偵コナンの初期EDテーマでもあった『迷宮のラヴァーズ』のリメイクです。
原曲はSOFT BALLETなども彷彿とさせるEBM歌謡でしたが、映像をみる限りテンポ感はそのままに打ち込み要素を廃してギターカッティングが映えるバンドアレンジにしていたようです。
何と言ってもheath自身が無理なく歌える範疇で書かれたと思われる絶妙に煮え切らないメロディーが、低いキーもなんなくこなせる鈴木の歌唱によって生まれ変わってるのが伺えます。heathとshinはしゃくりあげる歌い方が似ていますのでそりゃあ後者が歌えば曲の魅力をそのままにアップデートできるわけです。映像ではサビまで聴かせてくれないのが惜しい。
原曲は自身のソロアルバム未収録ですが、シングルは比較的入手しやすいのに加え、『all of heath』はもちろん『名探偵コナンテーマ曲集』や『森雪之丞原色大百科』といったコンピ盤などでもチェックできます。
『Traitor』共々ソロアルバム未収録でしたので、ミッシングリンクな2曲をここで回収しようという意図もあったのかもしれません。

★『GODSEED』
heath作のリードトラックだったようです。
ロディアスな疾走ロックで、DVDでおよそ全体像が掴めます。スタジオ音源がHPで公開されていたようで、そのリークと思われる音源がY○uTubeにあります。

★『sadistic fever』
heath曲。DVDがブートレグの様相のため、曲の特徴ほぼわからず。shinがシャウト気味のヴォーカルを魅せています。

★『Alone』
ギターストロークから始まるheath作のハードロックバラード。これはDVDでフルで聴けます。本人にとっても思い入れがあるようで、ソロライブでセルフカバーがなされたり追悼ライブ「heath the live」ではJO:YA(ex.Dope HEADz)により歌われたようです。

★『Flower』
heath作のロックバラード。DVDにサビ終わりのみが収録されています。バラードこそ作曲者のセンスとヴォーカリストの力量が問われますので、なんとか音源にしていただきたかった…。

★『Trouble!! Trouble!!』
どうやらheath作ながらCRAZE時代や初期のBLOODを彷彿とさせる、キャッチーさを排したハードコアパンクDVDには断片のみ収録。

★『DAYDREAM』

all of heath (4枚組)(Blu-Ray付)

all of heath (4枚組)(Blu-Ray付)

  • アーティスト:heath
  • ユニバーサル ミュージック
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あくまで某掲示板書き込みやファンサイトによる情報ですが、heathがメジャー期ソロでリミックス·シリーズ化してきた『Daydream』もRATSver.で収録予定だったようです。ライヴでも披露されたそう。
DVDにも未収録なため推測するしかありませんが、おそらくソロ処女作『heath』に収録されたバンド色の強いオリジナルver.が最も近かったのではと想像できます。
この曲はX JAPANのソロコーナーでオペラ座の怪人をテーマにしたベースソロとともに披露された経緯があり、ホラーテイストの演出が強いです。キーの低い歌メロはまるで呪文を詠唱するかのよう。
この時点で氏は明確な音楽嗜好がなかったというインタビューもありますが(「ジャンルとかよくわかんない」という発言も)ドラムの残響には既にインダストリアル指向の萌芽がみられます。
一方でshinはパンクとビートロック一筋の男。この手のヘヴィーロックや狂気渦巻くミドル曲を歌った例はなく、どんな仕上がりだったのだろうと全く想像がつきません。熱血ロックにでもなっていたら面白いです。

DVD収録の『LOST』と『SICK』はBLOODのレパートリー。既にリリース済みの楽曲で、RATS ver.の制作予定があったかは不明です。

shinこと鈴木慎一郎のブログではこのプロジェクトへの心残りが綴られており、もう一度やりたかったという思いもあったようです。ライヴの完成度も高かったようで、大成しなかったのが残念な限りです。
heath project様、何とかお蔵入りのアルバムの発掘&リリースは難しいのでしょうか・・・

Dope HEADz『PRIMITIVE IMPULSE』レビュー

改めてHEATH氏が天に旅立ったとは信じがたい…。合掌。

X JAPAN解散後のPATA・HEATH、hide with SpreadBeaverのI.N.Aに加え新人ヴォーカリストJO:YAを擁する4人組バンドの1stアルバムです。2001年作。

骨太なロックサウンドをベースに、I.N.Aのマニアックな職人技的打ち込みがより前面に出るスタイル。とはいえロックバンドならではのダイナミズムは大事にしていたようで、デジタル色の強い曲でPATAのギターが曲に生感を与えていたり、意外にもI.N.AがNo synthrsizerな疾走ロックを用意していたりもします。ほとんどの曲に参加しているzilchQueen of the Stone AgeのJoey Castilloが強力なドラムを叩いているのも大きいですね。
収録曲のなかでは、アニメの主題歌も似合いそうな熱血疾走ロック『GLOW』、HEATHらしいクールなメロを生かしミクスチャー色をも感じさせる『TRUE LIES』…という2大シングルがどちらも素晴らしいです。この時代のJ-ROCKが好きな方には是非探していただきたい!
ヴォーカルは良い声ですが、かなりの部分でエフェクトがかかっておりあくまで楽器としての扱いなのが好みを分けそうではあります。歌唱指導としてバイク音の真似をやらされたというエピソードがあるのですが、それゆえちょっとうねりのある歌い方が印象的。

そして何よりHEATH推しとしては、作詞・作曲に加えベースプレイそのものまでX時代とは比べ物にならないほど生き生きとしているのが嬉しいです 笑。
特にHEATH作詞・PATA作曲によるファンクロック『WING』はX JAPAN下手組の活躍というYOSHIKI指揮下では開花しなかったIFを感じさせ、今からでもチェックしていただきたい1曲。

ただし3人の大活躍の一方で随所にhideの不在を感じさせてしまう*1のも事実で、そのあたりがこのバンドが(チャートアクションはそこそこだったようでしたが)跳ね切らなかった一因かもしれません。皮肉にもバンドとしての個性が後退した次作のほうがhideの影を振り切れているように思えてしまいます。

ツアー後にJO:YAが脱退し後任に元Ravecraftのshameが加入しますので、この座組ではこの1枚きりです。もう1枚くらい聴きたかった・・・。

他所様の動画ですが、HEATH・I.N.A共作の『TRUE LIES』MVです。この曲でMステにも出たんだよな~。

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*1:『EYS』の歌詞はI.N.A、そして『evening rose』がheathからhideへのアンサーだと読み取れ、熱くなります。逆に『PARANOIA PIG』は曲がまんま『DAMAGE』すぎる。

CRAZE『ZtsG~code_number_7043~』レビュー

 

元D'ERLANGERやZi:Killのメンバーを中心に結成されたV系シーン発バッドボーイズロックの雄、(デビュー後の)三代目ヴォーカリスト鈴木慎一郎在籍時唯一の作品です。

それまでの作品は異様に激しいライヴの割に妙にポップなナンバーも多かったのですが、今作では加入していきなりメインソングライターとなった若きヴォーカリストに引っ張られるかのようにバンドがアルバム全体でハードコア化。
どうも前身バンドBODY時代より新ヴォーカリスト加入時は洗礼のごとくギターとドラムが爆音でヴォーカルの音量が小さい音作りがなされる慣習*1があり(相撲におけるかわいがり?)今作も同様なのですが、この音楽性にはむしろあっています。
『クロイカリスマ』『I Can't Feel』といった短尺ハードコア曲の畳みかけは圧巻で、そのぶん終盤に1曲だけある男臭いアコースティックバラード『I think about you』にもグッときます。パンキッシュながらもポジティブな光に満ちたメロディの『INSIDE OF MIND』も好きです。

氏は今作をもって脱退してしまいますが、以降のCRAZEを方向付ける重要な作品となりました。
賛否両論あった前任の緒方氏の熱血ヴォーカルも好きなのですが、キー低めでクールながらも内側に熱を感じさせるような鈴木氏の歌声はこのバンドにばっちりハマっていたと思います。初代 藤崎氏のようなクールな不良感や哀愁をみせる一方で緒方氏のようなポップネスや歌唱力も備え、更には後任者TUSK氏を思わせるドスの効いたシャウトも得意とする…聴けば聴くほどバンドにとって理想的なヴォーカリストだと思うのでこの1枚限りなのは残念ですね。その後の氏の活躍はソロプロジェクトBLOODで追えるのですが、比較すると曲はさておきギターリフとドラムが物足りなく思ってしまいます。

また今作からドラムの菊池 哲がGREATZ UPPER名義を併用するようになり、氏によるスクラッチサウンドエフェクトが随所に見られますがいかにも00年代初頭感があってカッコいいです。

一方で従来のメインソングライターだったギタリスト・瀧川一郎の楽曲が今作から一気に激減するのですが、それでも今作の私的ベストトラック『鎖』を作り上げています。
現実にもがきながらも突き進もうとする歌詞の、熱い男泣きビートパンクです。掻き毟るようなギターリフ・音色に涙がなぜか込み上げてくるんだよなあ。

2020年に徳間から再発されるもサブスクは25年時点で未解禁・・・他所様の動画の転載ですが、見て泣いてください。

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*1:前任者 緒方も加入時『ZERO』ではかなりヴォーカルが奥に引っ込んでいましたが、ツアーを経て認められたのか2作目『ware ware,war』でははっきり聞こえるミックスになっています。後任者TUSKは元々の仲間なので最初から適切なヴォーカル音量バランスです…。

デビュー25年目の停滞感? LUNA SEA『LUV』レビュー

『LUNATIC TOKYO 2025-黒服限定GIG-』参加された方はお疲れ様でした。
私は参加していませんが、どんな困難があってもステージに立つその姿勢に勇気づけられますし、一番の懸念事項であったRYUの声にもどうやら奇跡が起きたようで本当によかったです。
しかしドーム公演も含めた今回の『ERA TO ERA』というツアーは終幕前のアルバムの振り返りなのですよね。そこに限定する意味を自分はつかめていないのですが、とにかくREBOOT以降のアルバムを忘れてもらっては困る…ということで、
『A WILL』に続き今回は『LUV』をまたも大好きなバンドゆえの辛口含めた感想で書きました。
否定的な意見が苦手な方は回れ右でお願いします。

LUV(通常盤)

REBOOT後2作目。2017年リリース。
これからLUNA SEA輝かしいディスコグラフィーを追うという方にとっては最も後回しでいい作品だと感じています。残念ながらここにはLUNA SEAならではのバンドマジックは少なく、歴史的イベントである2015年のLUNATIC FESTの高揚感もありません。
よく言えば「ラフな作品」悪く言えば「バンドの魂が抜けた作品」でしょうか。

では駄作かと言うとそうでもなく、メンバー個々人が新たなトライアンドエラーを試みている側面も多々あるため正直『A WILL』より好きだったりします 笑。

リリースの背景から振り返りましょう。
前作から4年ぶりのリリースですが、その長い間にメンバー間で楽曲を練りに練り込んでいた・・・わけではなく、17年になって本腰をいれて制作を開始したようです。あわせて次作『CROSS』インタビューにおいてプロデューサーとなるスティーブ·リリーホワイトとのコラボレーションの話が今作制作前に始動していたと明かされています*1
ティーブとのタッグが今作にならなかった理由はおそらく時間的な制約や契約の都合等々かと思われますが、何にせよそんなビッグプロジェクトが控えるなかでの制作活動に身が入るはずがなく、いわば消化試合だったわけです。

公式インタビューSUGIZOは「今回はもっと流れに身を任せながらとても自然に生まれてきた、今の自分たちのそのままの姿、と言えます。悪く言うと、作業していくうちに気が付いたら出来ちゃった、という感じでした。」とかなり正直に話しており、「悪く言うと~」の部分に本音が滲み出ています。

楽曲に関して原曲者別にみていきましょう

INORAN
ルックスだけでなくソロの諸作にいい意味で年齢を感じさせない若々しい作品が揃う彼。今作でも彼の楽曲はひとまわり若く感じさせます。
EDMを通過したロックサウンド(ハンドクラップの音色もEDM的)で開放感のあるオープニング『Hold You Down』、煌めきと歪みが共存するインディーロック風のギターサウンドとコーラスが印象的なミドル『Thousand Years』…どちらもバンドに新たな色を加えるものでありながらたしかにLUNA SEAだと感じさせる意欲作です。
クラブサウンドにドラムが弾ける初のインスト『Ride the Beat, Ride the Dream』は真矢の声がサンプリングされていたり急なピアノブレイクが面白い。まあこれに関してはわざわざ音源にしてバンドのアルバムに入れるべき曲かと言われるといまいちですが…。

SUGIZO
彼は新機軸と王道をおさえています。
まずは『Lost world』の発展系のようなファンクギターが冴え渡るディスコパンク『BLACK AND BLUE』がバンドの全ディスコグラフィーの中でも上位に入る出色の出来でしょう。これぞSUGIZO流の2017年最新型LUNA SEAと言える仕上がりです。
このバンドならではの壮大なスケールを描くドラマティックなスローナンバー『闇火』も素晴らしい!。ただしライブで披露される際の圧倒的な説得力・絶唱と比較してしまうと音源は物足りないかな…。
一方もうひとつの新機軸『誓い文』に関しては、「60年代モータウン的 x 大瀧詠一的 x グラムロック*2という狙いはわかるものの、歌メロがJ-POPすぎるのと異様に明るい歌詞に若さではなくむしろ老いを感じてしまいました。似たようなイメージの曲として『SHINE』がありますが、あちらはポップでありながらもしっかりオルタナロックバンドとしての熱が詰まっている(大好き!!)のに対し、こっちはあくまでSUGIZO一人の演奏が見事なポップ曲でしかないような気がするんですよね。特に下手二人の存在感のなさ…。ただ、これがリードトラック候補だったというのはだいぶ狂った発想でそのパンクな姿勢は好きです 笑。
疾走する表題曲はギターリフ&ドラムフレーズが印象的ですがThe FLAREの使いまわし。さすがのカッコよさですが新鮮さがなかったのは残念でした。たしかにフレアはSUGIZO氏にとってアーティストとしての充実期でありながらセールス的には最も不遇な時代の活動でしたのでもう一度蘇らせたいのでしょうが、ソロや課外活動を含めてネチネチ聴き込んでいるリスナーを忘れてもらっては困ります。

RYUICHI
今回のトピックとも言えるでしょうか、RYU氏も2曲を手掛けています。いまだに河村隆一ガー…等々言って96年で止まっているリスナーも少なくない一方で、実は何気に彼がいちばん「LUNA SEAらしい」曲を書いており、リブートLUNA SEAを心から楽しんでいるとわかります。
SUGIZOが全面的にアレンジを手掛けた陰りあるミドルポップ『pieces of a broken heart』は例のヴァイオリンあり"あの"ロングトーンのギターソロありと「ザ·SUGIZOっぽい曲」です。ただしファンとしてはたまらない美味しさではあるものの手癖で塗り固められた感も否めず、またしても下手二人は何を…?という疑問も浮かびます。
『So Sad』は透明感のあるアルペジオが響きわたり後半シューゲイズに移行するミドルで、どっちかというと「LUNA SEAカップリング」感のある曲ではあります。歌メロ…特にサビはメロディーだけ切り取るとどこか昭和のフォーク歌謡みも感じられ、そこがRYUICHIテイストでしょうか。


★J
J氏に関してはかなり不調の様子。
まず良かったのはシングル『Limit』。復活直後のシングル群に見られた歌詞とメロディーの噛み合わせの悪さが改善された、Jサイドのシングル曲として新たな名刺代わりと言えそうな疾走曲です。間奏での情報量の多いギター·リズムアレンジやキーの高いサビもカッコいい!
しかし残り2曲はどちらも疑問の残るもので…。
エモ·ポップパンクのようなサビはカッコいいものの5分で書き上げたかのような詞の手抜きぶりに衝撃が走る『Brand New Days』に加え、タイトルに黒夢感のある『Miss Moonlight』に至ってはインタビューにて「何の変哲もないけどストーン!と胸の中に落ちてくるような曲。」とのことでしたがフックがなく変哲がないにも程があります…。リフもJのデモをそのまま弾きましたという感じ。悪い曲ではないですが、これは「LUNA SEAカップリング」ではなく所謂世間におけるカップリング曲のような弱さです。
この時期はライヴパフォーマンスもちょっと弱めに感じましたのでもしかしたら見えないところで色々大変だったのかもしれません。何事もなくてよかった…。

 

ということで意欲的な楽曲も含むため前作より好きなのですが、それでも過去の彼らが残した作品を思えばとても傑作とはいいがたいという感想になってしまいます。キーが高いことも加わって案の定前作同様定番メニュー化した楽曲は少ないです。メンバーも前作以上に内心思うところがあったのかもしれません。個人的には『Brand New Days』を『Dejavu』とかと入れ替わりで毎度ガンガン演ってくれても良いのですが…笑。新曲をしっかり押し出す方がカッコ良いと思うんですけどね。逆に『BLACK AND BLUE』が18年クリスマスの『LUNATIC X'MAS「SEARCH FOR MY EDEN」』という過去再現コンセプトのアンコールで披露されたのは嬉しかったです。

意気揚々と立ち上げた再結成にもいつかは停滞感が訪れてしまうという事例のお手本かのようですが、ついつい意識してしまう魅力もあります。リキが入りきってなかったり失敗してたり・・・そういう完璧でない作品もなんだか人間味があって良いじゃないですか。私もかつてのように常に全身全霊でピリピリと仕事をするようなフェーズを過ぎましたので、この感じにむしろ共感します 笑。そして次作でしっかり傑作を届けてくれましたのでそれで良し。
ということで終わりです。