スピード感(仮)

自分の好きな音楽、中古屋で収穫したCD等についてつらつら語ります

TAKUI『NUCLEAR SONIC PUNK』レビュー

 

NUCLEAR SONIC PUNK

NUCLEAR SONIC PUNK

 

 シンガーソングライター中島卓偉TAKUI名義でリリースした1stアルバム。

プロデュースに元Stevie Salas ColorcodeのC.J DE VILLARを迎えています。彼はX JAPANDAHLIA』『SCARS』にもアシスタントエンジニアとして参加しており、当時のTAKUIがhide人脈と関わりがあったこととも関係がありそうです。

ひたすら初期衝動を叩き付けるヘヴィーロックアルバム。バックバンドにプロデューサー同様元Stevie Salas ColorcodeのドラマーやStevie Salas本人を迎えるなどあまりに豪華な布陣のもとで制作された作品で、レコーディング・ミキシング等もL.Aで現地のスタッフによって行われたことにより当時の日本のロックはおろか洋楽でもなかなか聴くことのできない音の良さを誇っています。

彼の最大の武器は歌唱力。後に西川貴教がライバルと公言したほどですが、今作では初期衝動ゆえか全編通して力みまくりの凄まじい破壊力でもって迫ってきます。
Aメロ+サビのみというシンプルな曲構成に怒声のような勢いの歌声が映える『イノヴェイダー』、zilchのRayや元GUNS'N ROSESのMATT SORUMを迎えた本作中最もヘヴィーなインダストリアルサウンドの『MUST BE STRONG』、ザクザクしたリフが特徴的な『BEAT YOURSELF BLIND』では血管がブチ切れそうな限界レベルの超高音のシャウトを聴かせる等、重厚なサウンドをもねじ伏せる圧巻の歌唱を見せつけてくれます。
これほどのものなら『UP TO DATE』での「俺は1000万に一人のエンターティナー」というあまりにビッグマウスな詞ですら説得力を感じるというもの。

またバラードでは一転、ピアノ・ストリングスを用いた楽曲も。後の彼に比べると、バラードにおいても力みすぎなのは良くも悪くも若さなのかもしれません。ザラついたオルタナサウンドに毒っ気のある歌詞が乗る『さらば摩天楼のFairy tale』は異色のバラード。

あと『ROLL UP FOR THE UNIVERSE』や歌詞がコミカルな『TOO MUCH BUSINESS』といったポップでパンキッシュな楽曲は以降の作品の方向性に通じるものがあります。

しかしこれほどの充実作である今作、当時はファンの間でも必ずしも高評価というわけではなかったようです。
TAKUIはシングル曲をアルバムに収録しない方針を取り続けていましたが、今作にもデビューシングル『トライアングル』・2ndシングル『ギャンブルーレット』は収録されていません。その流れで突然こんな作品が出てきたとなると違和感を抱いたファンがいたというのもおかしくない話ですよね。
結果として次作では野山昭雄(元VANILLA、LAUGIN'NOSE)をプロデューサーに迎えマイルドな質感のパンク寄りな方向性にシフトし、ブレイク一歩手前まで行くことになります。
その後本名名義に改名したことでサウンドの幅は広がっていくのですが、今作ほどのヘヴィーなサウンドは2014年の『BEAT & LOOSE』まで待たねばなりませんでした。